赤い風鈴
幼い頃 TVなどで夏祭りのシーンを観て 一度行ってみたいと思っていました。
小学校入学前の夏 親戚一家が私を夏祭りへ連れて行ってくれることになりました。
色々な夜店があり、そこは映像で観るよりも華やかで活気のある世界でした。
イトコたちは「あれ買って!」「これ食べたい!」などと楽しそうに言っていました。
私は、『連れてきてもらえて怒られないだけで、ありがたいのに親に好きな事を言っている。なんて贅沢なのだろう』と思いイトコ達を不思議な気持ちで眺めていました。
そんな私を気遣うかのように伯母は「欲しい物があったら言ってね」と言ってくれました。私にしてみれば、怒られないという極上の贅沢を味わっているのです。これ以上欲しい物はありませんでした。
風鈴をそれぞれが買うことになりました。
伯母は「あさみちゃん 好きなのを選んでね。」と言ってくれましたが私はとても困りました。何故なら 伯母はずっと私の顔を観ているのです。何を選べば伯母が喜ぶのか?何を選ばせたいのか分かりませんでした。
一瞬伯母が 赤い風鈴を見ました。『伯母さんが買わせたいのはコレだ』と私は思い
「赤いのがいい」と答えました。自分で選ぶという概念が私にはありませんでした。
母親と買い物に行くと口では「好きな物を選びなさい」と言っても 視線で選ぶものを指示してきていました。つまり、私には選択の自由がなく母親が選ばせたい物を自分の意志で選んだようにする必要がありました。
その赤い風鈴は購入後一週間ほどで破損しましたが、今でも楽しかった思い出として私の心の中で鳴っています。