迷子になってみた
母親はデパートが大好きでした。私という家来を引き連れ女王様のように振る舞い、店員さんの丁寧な接客に酔っているかのようでした。
買い物の間、私はニコニコとしながら直立不動でおとなしく待っていることを要求されました。幼い子供にとってそれは苦行でしかありませんでしたが、衣食住を提供してもらうには 耐えるしかありませんでした。
8歳くらいの頃 「お母さ~ん!!!!」と絶叫し泣きながら 親を探している年が同じくらいの子を見かけました。その子がなぜ、母親を泣きながら探しているのか 全く理解できませんでしたが、迷子になれば、しばらく母親と離れることができることに気が付きました。
早速実行しました。
一人で店内をウロウロしたり 自由な時間を過ごしました。まさに、パラダイスでした。
さすがに長時間迷子でいるのはマズイので しばらくして受付へ行って迷子になったことを話しました。(当時は 館内放送で”迷子のお知らせ”などと名前が読み上げられていました。)そして、私の名前が読み上げられ 母親がやってくるまでの間 受付の方や近くにいた店員さんにすごく親切にしていただきました。
これに味を占めた私は、その後もちょくちょく迷子になりました。
ある時、自分の名前ではなく、母親の名前と住所を館内放送してもらいました。
「✕✕町からお越しの〇〇様、お嬢様がお待ちでございます。」
これには、母親も真っ赤になって受付へやってきました。
後日、近所の方がその館内放送を聞いていたことが判明しました。
母親はカンカンになって 「恥をかかせた」と、私を怒鳴りつけましたが、私はしょんぼりした態度を見せつつも、母親に恥をかかせることができた達成感でいっぱいでした。